ドル売り・円買いが多くなれば、邦貨建ての円・ドルレートは1ドル105円から1ドル100円のように低下する為替レートはこうした投資家たちの国際間での資産選択の結果、日々変動するようになった。
意味では、為替レートの変動は債券価格や株価の変動と基本的に変わらない。
ように為替レートが国際間の資産選択を通じて決定される一種の資産価格であるという考え方を、アセット・アプローチ(アセットとは資産の意味)という。
アセット・アプローチで想定されている国際金融取引は、各時点の資本取引、すなわち、ストックの資本取引であり、今日では経常収支の赤字・黒字に対応するフローの資本取引額よりもはるかに大きなものになっている。
いくつかの実証研究によると、中期的な円・ドルレートの決定を考える上では、日米の長期債の期待収益率の差が重要である。
すなわち、米国の長期国債のようなドル建ての証券の期待収益率が日本のそれを上回るにつれて、ドル建て証券への投資が円建て証券への投資よりも有利になるので、円建て証券からドル建て証券への乗り換えが起こる。
乗り換えの過程で、外国為替市場では円が売られてドルが買われるため、円・ドルレートは上昇する。
逆に、米国の長期債の期待収益率が低下して、日米の長期債の期待収益率の差が縮まると、米国の長期債から日本の長期債への乗り換えが起こる。
過程で、外国為替市場ではドルが売られて円が買われるので、円・ドルレートは低下し、円高・ドル安になる。
右のメカニズムをより詳しく説明するために、まず長期債の期待収益率について説明しておこう。
日本の長期証券としては、すでに発行されて市場で売買されている長期国債を考えよう。
長期国債の1単位の額面価格は100円である。
額面価格は国によって長期債が満期償還されるときの価格であり、償還価格ともいう。
額面価格100円につき1年あたりの利子市場で売買されるが、時の売買価格を流通価格という。
いま流通価格を98円としよう。
額面価格から流通価格を差し引いた金額を償還差益と呼ぶ。
現在の数値例では、償還差益は11円である。
償還差益を現在から満期までの残存期間で割ったものが、1年あたりの償還差益である。
いま残存期間が2年であるとすると、現在の数値例では1年あたりの償還差益は1円になる。
であり、右の例では、3%になる。
以上から、日本の投資家にとって右の残存期間が2年の米国国債に投資した場合に期待される1年間の収益率、すなわち米国国債の期待収益率は、流通利回り11・2%から期待為替差損率3%を差し引いた8・2%になる。
円に換算した、すなわち、円建ての米国国債の期待収益率である。
日本の投資家にとって、日本国債に投資する場合の期待収益率は7・1%であるのに対して、米国国債に投資する場合の期待収益率は8・11%であるので、為替差損を被ることが予想されても米国国債に投資する方が有利である。
そこで、当初日本国債を持っていた日本の投資家は、それを流通価格98円で売り、次に円で1ドル100円のレートでドルを購入し、ドルで米国国債を購入しようとするで、あろうつまり外国為替市場では、円が売られて、ドルが買われる。
日本の投資家の日本国債から米国国債への乗り換えの過程で、日本国債が売られ米国国債が買われるので、日米両国の国債の価格は変化すると考えられる理解を容易にするために、それらの国債の売買は両国の国債市場全体からみると僅かなものであるため、両国の国債の価格はこうした取引によっては影響を受けないとしよう。
現在の円・ドルレートが変化しても、投資家たちが予想する2年後の円・ドルレートは、当初の94円で変化しないとしてみよう。
右のような日本の国債を売って米国国債に乗り換える動きによって、外国為替市場では円が売られてドルが買われるため、ドルの円で測った価値、すなわち邦貨建ての円・ドルレートは上昇する。
円・ドルレートの上昇は、日本の投資家にとって、日本国債に投資しても米国国債に投資しても同じ期待収益率が得られるまで続く。
あらかじめ結論を示しておくと、日本国債と米国国債の期待収益率が同じになる現在の円・ドルレートは、約1ドル102・4円である。
円・ドルレートのもとでは、2年間の為替差損は2年後の94円から現在の102・4円を差し引いたものであるから、8・4円になる。
割って100倍すると、1年間の為替差損率4・1%が求められる。
結局、日本の投資家にとっての米国国債の期待収益率は、流通利回り2・2%から為替差損率4・1%を差し引いた、7・1%になる。
日本の国債の期待収益率と同じであるから、現在の円・ドルレートが100円から1011・4円まで上昇すると、日本の投資家による日本国債から米国国債への乗り換えが止まり、円・ドルレートも1011・4円で安定する。
安定した円・ドルレートが現在の均衡為替レートになる。
日本国債の期待収益率=米国国債の円建て期待収益率日本の金利=米国の金利十期待為替レート変化率右の数値例では、将来の円・ドルレートが現在のそれよりも低下するために、日本の投資家が米国国債に投資すると為替差損を被る場合を説明した逆に将来の円・ドルレートが現在のそれよりも上昇する場合には、為替差益が得られる。
場合には米国国債の期待収益率は、米国国債の流通利回りに1年あたりの予想される為替差益率(これを、以下、期待為替差益率という)を加えたものになる。
以上から、米国国債の期待収益率は一般的に示される。
1年あたりの予想される為替レート変化率(以下、期待為替レート変化率という)がプラスの場合には為替差益率になり、マイナスになる場合には為替差損率になる。
円・ドルレートは次第に日米の貿易財で測った購買力平価に近づいていくと予想するというものがある。
日米の貿易財で測った購買力平価は日本の貿易財価格(円建て)を米国の貿易財価格(ドル建て)で割ったものであるから、日米の貿易財価格が変化すれば、貿易財で測った購買力平価も変化する。
かりに、日本の貿易財価格の上昇率の方が米国のそれよりも低ければ、将来の日米の貿易財で測った購買力平価は低下すると予想される(82頁の(2)式を参照のこと)。
実際の円・ドルレートが貿易財で測った購買力平価に近づくと予想されるならば、貿易財で測った購買力平価が、将来、低下すると予想される場合には、実際の円・ドルレートも、将来、低下する(円高・ドル安になる)と予想されるであろう。
貿易財価格の上昇率をインフレ日本の期待実質金利=米国の期待実質金利率と呼ぶと、日本のインフレ率が米国のそれよりも低い場合には、将来の貿易財で測った購買力平価は低下するから、将来の円・ドルレートも低下すると予想されるということである。
したがって、日米両国の金利を一定として、米国のインフレ率の方が日本のインフレ率よりも高いと予想される場合には、米国国債に投資することは為替差損を被ることを覚悟しなければならない分だけ不利になる。
逆に、日本国債を持つことはそれだけ有利になるから、円・ドルレートは低下するであろう。
投資家たちが予想する将来のインフレ率を期待インフレ率という。
日本の貿易財の期待インフレ率が低くなると、購買力平価は円高・ドル安になるから、投資家たちは、実際の円・ドルレートも近い将来、円高・ドル安に変化すると予想するであろう。
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